歴史

歴史は壮大な社会の実験室である

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歴史を勉強する意義とはなんだろうか?この問いに対する答えを何部かにわけて探っていきたいと思う。

 

古来、「勉強」とは歴史を学ぶことだった

 あまり知られていないことだが、古来「勉強」と言えば歴史を学ぶことだった。ほんの150年ほど前まで歴史は勉強の主要教科であり、学びとは、歴史を知り、歴史から教訓を得ることそのものだったのだ。たとえば、儒教の祖となった孔子と弟子たちが学び議論する様子を、今日の私たちは『論語』や『聖蹟図』などからうかがい知ることができる。かれらが議論しているテーマは、しばしばに堯・舜・禹などの古代の聖人君子たちの政治についてであった。かれらは、歴史上の政治家たちの失敗例や成功例について知ることで、どうすればいまの政治を良くすることができるかを考えようとしていた。

 また、三国時代の呉の君主・孫権は、部下の将軍・呂蒙に学問を勧める際にこう言っている。

「私は若い頃、『詩経』『書経』『礼記』『春秋左氏伝』を読み、政務に就いてからは史書と兵法書を好んで読んだが、どちらも大いに得るものがあった。お前も、まず兵法書では『孫子』『六韜』、史書では『春秋左氏伝』『史記』『漢書』などを読んでみるといい」

 ここで挙げられている書物のうち、『書経』は古の政治家たちの言行録であり、『春秋左氏伝』は春秋時代の魯の国の歴史書、『史記』は古代から前漢までの通史、『漢書』は前漢時代を紀伝体で記した書物である。驚くべきことに、部下への自己啓発に推薦した書物の大半が歴史書なのである。

 

歴史は膨大な実験室である

 日本においても歴史の重要性は高かった。たとえば徳川家康は江戸幕府を興すときに、幕府政治の始祖である源頼朝のやり方を学んだと言われている。安定した統治の仕組みを考えるために、歴史上の人物のやり方を参考にしようとしたのだ。

 繰り返しになるが、古来、歴史はつねに勉強の主要科目だった。いまの世の中を良くするために、歴史からどのようなヒントを引き出せるか。立派な人間になるために、歴史上の人々からどのような教訓を引き出せるか。それらが、長い間、勉強の主題であり目的であったのだ。それは現代においても変わらない。たとえば経済学の中には、もっとも重要な分野のひとつとして経済史という分野がある。経済史は、文字通り経済の歴史についての学問だ。なぜ経済学を学ぶ際に歴史を学ぶことが大切なのだろうか。

 例を挙げて説明しよう。銀行は世の中のお金の流れを支えている重要な機関で、経済を安定させるために重要な役割を担っている。その銀行が潰れてしまったときに世の中にどのような影響があるのかを、経済学者としては当然知りたいと思う。しかし、残念ながらそれを知るために実験を行うことはできない。銀行が潰れたときの影響を知りたいからといって、「ちょっと試しに三井住友銀行を倒産させてみようか」ということはできないのである。ではどうしたらよいかというと、歴史の中の事例から学ぶしかない。過去に銀行が潰れた事例を探し、そのときに経済にどのような影響があったかを調べることで、銀行が潰れたときに起きる影響を推測することができるのである。

 このように、歴史というのは膨大な実験結果の宝庫だ。過去に様々な人物や団体が様々なことに挑戦し、様々な結果を生んできた。それらを巨細に眺めていくことで、「どうすればうまくいくか」「同じ失敗を繰り返さないためにはどうしたらよいか」といった、現代や未来に活きる知恵を引き出すことができるのだ。

第二弾はこちら

日本史の教育が、明治維新を引き起こした。歴史教育のパワー

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